日中の間で本音の議論をする芽が生まれつつある・・・ 編集手帳 八葉蓮華
亡くなった漫画家の赤塚不二夫さんは、9歳の時に中国東北部(旧満州)で終戦の日を迎えた。夕刻、カラスの大群が真っ赤な夕空を不気味に埋め尽くしていた。その赤と黒の光景が、生涯の原風景となったという◆約100人の漫画家が、みずからの終戦体験を描いた画集「私の八月十五日」(2004年刊)の中国語版が、日本側の働きかけにより人民日報出版社から近く刊行される◆赤塚さん、ちばてつやさんをはじめ、旧満州で終戦を迎えた多くの漫画家の作品も掲載されている。田舎町で玉音放送を聞いて自決の覚悟を語る家族、ソ連軍に追われての逃避行を続ける人々なども描かれている◆中国では多くの若者が日本の漫画を愛読している。その同じ若者が歴史問題では反日感情を抱いている現実もある。中国人学生の意識調査を行った筑波大学名誉教授の遠藤誉(ほまれ)さんは、「中国動漫新人類」(日経BP社)の中で指摘している◆日本人の戦争への思いを描いたこの画集は、どのように受け止められるだろうか。結果は分からないが、日中の間で本音の議論をする芽が生まれつつあることは間違いない。
11月25日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge