11.13.2008

13年前の痛みを知る県の知事が使う言葉ではない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

13年前の痛みを知る県の知事が使う言葉ではない・・・ 編集手帳 八葉蓮華
朝鮮戦争で日本は特需に沸き、「ガチャ万」という言葉が生まれた。工場の機械をガチャと動かせば1万円が儲(もう)かると。ことほどさように、ひとの不幸を身の幸運とする「火事場泥棒」めいた非情な仕組みが世の中にあるのは事実である◆とはいえ、隣家の丸焼けが待ち遠しいとばかりに、火事の起きる前から舌なめずりをする“おばかさん”はいない。そう思いきや、世間は広いものである◆兵庫県の井戸敏三知事が近畿ブロック知事会議で「関東大震災は(関西経済の)チャンスだ」と述べた。一語をとらえての批判は趣味に合わないが、13年前の痛みを知る県の知事が使う言葉ではない◆旧自治省の役人時代には、同僚が病気や事故で倒れる日をチャンスとして待ち望んでいたのかしら…と、要らぬ想像をしてみる。思惑を腹に隠しておけない正直な人らしいが、友人にはあまり持ちたくないお方である◆東京でこれを書いている。直下型の大地震で都内の44万棟が全壊し、約4700人が死亡する、との被害想定がある。不幸にして現実になれば、兵庫の知事さんからは救援物資と一緒に祝電が届くだろう。

11月13日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge