木造アパート、トキワ荘の日々・・・ 編集手帳 八葉蓮華
まとめ買いしたフランスパンを朝昼晩にかじり、二人で机を並べて漫画を描く。寒い夜は布団を頭からかぶり、睡魔に襲われると、ペン先で互いの太ももを刺し合った◆東京・椎名町の木造アパート、トキワ荘の日々を「藤子不二雄」のおふたり、安孫子素雄(あびこもとお)(74)、藤本弘(96年逝去)の両氏は自叙伝のなかで回想している◆手塚治虫さんがここから天空高く羽ばたき、まだ少年の面影を残す石ノ森章太郎さんや赤塚不二夫さんがひな鳥の時期を過ごした。若手漫画家の梁山泊と呼ばれた伝説のアパートである。藤本さんとの合作「オバケのQ太郎」や一人で描いた「忍者ハットリくん」などで知られる藤子不二雄(A)――安孫子さんが秋の叙勲で旭日小綬章に選ばれた◆藤子不二雄を名乗る以前、「足塚不二雄」というペンネームを付けていた時期がある。「手塚先生の“手”に遠く及ばぬ“足”である」と。神のごとく仰ぎ見た手塚さんの生誕80年にあたるきのう、受章が報じられた◆赤塚不二夫さん(享年72)が亡くなって間がない。悲しみにつけ、喜びにつけ、トキワ荘から流れた歳月のしのばれる秋である。
11月4日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge