狙い通りの景気浮揚効果が望めるものやら・・・ 編集手帳 八葉蓮華
NHKが昔、ある人気俳優に密着して芸と素顔を特集したとき、俳優が番組のなかで「作者のイズは…」と3回語った。意図――イトである◆放映後、NHKの用語委員会で議題になり、再放送ではテロップで「イト」と流すべきだ、いや、俳優が気の毒だ、と会議がもめた。委員長の国文学者、池田弥三郎氏が「単純なイト・イズ・ミステークということで…」と収め、テロップなしで決着したという挿話が残っている◆漢字の読み間違いというのは指摘する側も気まずいもので、なにか心ない行為をしているかのようなシュンとした気分になる。相手が首相でも変わらない◆「踏(とう)襲(しゅう)」を「ふしゅう」、「頻繁(ひんぱん)」を「はんざつ」、「未曽有(みぞう)」を「みぞうゆう」と、麻生首相が国会答弁などで誤った言葉遣いを連発しているという。いずれも慌てるあまりの単純な読み間違い、言い間違いだろう◆国語力をそう恥じる必要はないが、「定額給付金」をめぐる政府・与党の迷走をなすすべもなく傍観した指導力は恥じていい。狙い通りの景気浮揚効果が望めるものやら、「意図・イズ・ミステーク」の香りが濃厚である。
11月14日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge