11.12.2008

壮士気取りの「職業的精神に欠けた」論客は要らない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

壮士気取りの「職業的精神に欠けた」論客は要らない・・・ 編集手帳 八葉蓮華
旧陸軍では軍需品の輸送兵(輜重輸卒(しちょうゆそつ))を〈輜重輸卒が兵隊ならば蝶々(ちょうちょ)とんぼも鳥のうち〉と見くだした。旧海軍では情報を統括する軍令部第三部を〈腐れ士官の捨てどころ〉と揶揄(やゆ)した◆「補給」と「情報」という戦略・戦術の基本を軽視し、壮士風の政論を好む。かつての日本ほど「専門的、職業的精神に欠けた、政治的な」軍隊を持った国はないと、米国の政治学者サミュエル・ハンチントン氏が著書「軍人と国家」に書いている◆日本が侵略国家だったというのは濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)――と、政府見解と異なる論文を発表して解任された田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長がきのう、国会の参考人質疑で「自衛隊員にも言論の自由はある」と述べた。それは違う◆首相は自衛隊の最高指揮官で、政府見解はその人の明確な意思である。気にくわなければ制服を脱ぐしかない。たとえば首相が「不戦の誓い」を語り、自衛隊の幹部が言論の自由を盾に「我々には別の持論がある」と異を唱えることを想像してみれば、その異様さは容易にわかる◆専門的、職業的精神が自衛官の誇りだろう。壮士気取りの「政治的な」論客は要らない。

11月12日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge