百俵の米を多数の者に分け、食いつぶして何が残るのだ・・・ 編集手帳 八葉蓮華
「百俵の米を多数の者に分け、食いつぶして何が残るのだ」。戊辰(ぼしん)戦争の痛手に苦しむ長岡藩の大参事・小林虎三郎は、縁戚(えんせき)の藩から届いた見舞いの米を分けろと迫る藩士たちを諭した◆山本有三が戯曲で描いた名場面が、新潟県長岡市の公園にブロンズの群像で再現されている。長岡藩は百俵を元手に学校を建て、人材を育てた。小泉純一郎元首相が所信表明で引き合いに出し、一躍有名になった「米百俵」の逸話だ◆連想するのは、政府の給付金構想である。2兆円を皆で分けて何が残る、と言うつもりはない。一人1万2000円、子どもと高齢者はさらに8000円、心待ちにしている人も多いだろう。だが、政治のドタバタぶりには気が萎(な)える◆「この百俵が、米だわらでは見積もれない尊いものになるのだ」と虎三郎は言い切った。信念をもって分配するなら、この言葉に負けない迫力で効果を説かねばならない◆米百俵の像は、竹下内閣の「ふるさと創生事業」の交付金1億円を使って作られたそうだ。20年前のばらまき施策にも賛否両論あったが、ともかく政治の神髄を伝えるモニュメントは残した。
11月16日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge