豊臣秀吉「一夜城」の伝説が、墨俣(すのまた)(岐阜県)や石垣山(神奈川県)に残っている。暮れ方には何もなかった山の上に朝靄(あさもや)をついて巨大な城郭が姿を現せば、人々は目を疑ったことだろう
ピラミッドの石組みを崩し、円柱形に組み直す作業も、むずかしさの度合いでは秀吉の一夜城に劣らない。麻生首相の明言した「天下り斡旋(あっせん)の年内全廃」とはそういう大工事である
同期が出世するにつれ、多くの人が定年前に退職していく諸官庁は、入省年次の最も古い次官を頂点に、新人を底辺にもつピラミッドである。天下りの全廃で、出世コースを外れた官僚も定年まで勤めることになる。円柱形への移行を嫌い、霞が関は死に物狂いで抵抗するだろう
汚職の温床、天下りの根絶にかける首相の意気やよし…としても、綿密な設計図と不動の信念なくして工事の成功は期しがたい
石垣山の一夜城は樹林の中に骨組みをつくり、紙を張って白壁と見せかけ、周囲の樹木を一夜のうちに伐採して出現させた“張り子の城”であったとも伝えられる。首相がドンと胸を叩(たた)いた「11か月城」が、張り子に終わらぬことを祈る。
2月4日付 編集手帳 読売新聞
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