作家の久世光彦(くぜてるひこ)さんが語ったことがある。「西條(さいじょう)八十(やそ)と服部良一がいなかったら日本人は復興しそこねていただろう」と。戦後復興の歩みは、両氏の作詞・作曲した「青い山脈」の歌声と切り離せない
米海軍第7艦隊の旗艦は名を「ブルー・リッジ」(青き尾根、の意)という。横須賀を母港とする旗艦が賓客などに演奏して聞かせる“艦歌”は「青い山脈」であると、司馬遼太郎さんが「時代の風音」(UPU)に書いている。いまもそうらしい
〈古い上衣(うわぎ)よ さようなら…〉と、戦後復興の陰の功労者であった在日米軍を、もはや用済みの服に見立てたわけでもあるまい。民主党の小沢一郎代表が「アジアの平和と安全には第7艦隊があれば十分で、陸空軍も海兵隊も要らない」とも聞こえる発言をし、与野党に反発と困惑の波紋を広げた
米軍の抜けた穴を日本が自力で補うには膨大な予算と、時間と、軍備増強が招く対外摩擦を覚悟しなくてはならない。いかなる覚悟があっての発言だろう
古い上衣は脱ぎましょう、新しい上衣は知らないよ――では、首相を志す人の言葉としていささか心もとない。
2月28日付 編集手帳 読売新聞
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