2.26.2009

プロレス中継、半世紀余り、地上波から姿を消す・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 日本の電気掃除機で過去に最も名前の売れた機種は三菱電機の「風神」といわれる。「ただいまリング上を掃き清めておりますのは『風神』であります」。往年のプロレスファンはご記憶のことだろう

 昭和40年代の初め、日本テレビのプロレス中継では対戦の合間に生のCMが入った。飛び散った汗の掃除は雑巾(ぞうきん)のほうが…と子供心に思わぬでもなかったが、ジャイアント馬場の登場を待ちつつ聞いたリングアナウンサーの声は今も耳に残っている

 ある人はテレビや掃除機などの電化製品が一つ、また一つと増えていったわが家の遠い昔を瞼(まぶた)に浮かべる。ある人は、画面の力道山と一緒に体を動かしていた祖父母の面影を偲(しの)ぶ。プロレス中継という鍵でひらかれる記憶の扉はさまざまだろう

 日本テレビが日曜深夜に放送しているプロレス中継が来月で終わり、地上波から姿を消す。定期中継がはじまって半世紀余り、見る人が減ったためという

 歌人の島田修三さんに一首がある。〈女房のコブラツイスト凄(すご)きかな戯れといへ悲鳴ぞ出(い)づる〉。そういえば、その技を初めて目にしたのも日本テレビの中継だった。

2月26日付 編集手帳 読売新聞
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