講道館柔道の創始者である嘉納治五郎は、日本の英語教育の先駆者でもあった。昭和の初め、文部省が中学校の英語の時間数を半減しようとした際には、日本英語協会の会長として反対行動を起こしている
無論、欧米の信奉者ということではなく、日本文化を自信をもって世界に広げるために英語力は欠かせぬ、と嘉納翁は考えていたようだ。柔道が「JUDO」として発展した素地は、そうした教育哲学の中にも見いだせるだろう
講道館の館長職は、これまで4代、嘉納家が継いできた。だが、現在の嘉納行光館長が勇退を表明し、モントリオール五輪金メダリストの上村春樹氏に引き継がれる見通しだ。柔道の表舞台から「嘉納」の大看板が消える
カラー柔道着の導入に続き、選手の強弱を点数化したポイントランキング制が採用されるなど、世界の柔道は日本的な武道の姿から離れつつある。嘉納の威光に頼ることなく「道を講ずる館」からその理念をどう発信するか、むずかしい時代になった
JUDOを反訳した時に、柔道ではなくジュードーになってしまうようでは、嘉納翁はたぶん許すまい。
2月22日付 編集手帳 読売新聞
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