2.25.2009

「被害者遺族の心情」真相を語った手紙を書きなさいその時が来たら・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 谷川俊太郎さんに「真犯人に」という詩がある。〈時効まで待ってあげよう/あなたは臆病者にちがいないから/手紙を書きなさいその時が来たら/歴史に宛てて一通の手紙を書きなさい/あなたの十五年間の油汗で〉

 「松川事件」が起きたのは1949年(昭和24年)である。福島県内の東北線でレールの一部が破壊されて列車が転覆し、3人が死亡した。詩はその14年後、犯人不明のまま時効が1年先に迫ったころに書かれている

 手紙を書きなさいと犯人に告げたい事件はほかにもある。6年前に時効が成立した朝日新聞阪神支局襲撃事件もそうである

 「週刊新潮」が連載した実行犯を名乗る人物(65)の手記は、真犯人による「歴史あての手紙」なのかどうか。事件の当事者である朝日新聞は手記の疑問点を検証記事で列挙し、「創作としか思えない話」と述べている

 告白が偽りならば被害者遺族の心情をおもちゃにしたことになる。そうではない、真相を語った手紙だというのならば、反論に堪える第二信がなくてはなるまい。谷川さんの詩の後段から一節をひく。〈事実に帰りなさいただ事実だけに〉

2月25日付 編集手帳 読売新聞
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