2.20.2009

「無責任」最後に頭をなでてもらったのはいつだろう・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 ドイツの哲学者、アルトゥール・ショーペンハウアーはプードルを友とした。「アトマ」(世界精神)という名前だが、その犬に腹を立てたときは「人間」と呼び、「おまえも人間でしかないのか」と悪態をついたという

 イタリアの哲学研究者ピエトロ・エマヌエーレ氏が「この哲学者を見よ」(中央公論新社)につづった挿話にある。万物の霊長も形無しだが、人間嫌いの哲学者に同調したくなるような無責任な飼い主もときにはいる

 ヨミウリ・オンラインの地域版で読んだ記事が胸を離れない。秋田県内で保護された犬と猫36匹が県の動物管理施設で「殺処分」される、その現場に立ち会った記者のルポである

 6匹の子をもつ、やつれた母犬がいた。麻酔の注射で意識が朦朧(もうろう)とした母犬を職員が優しくなでる。親子を隔てた壁を取り去ると、ふらふらしながら子犬たちのもとに寄り添ったという

 記事には、子犬たちを抱くようにして身を横たえ、授乳をする母犬の写真が添えられている。もとの飼い主の手で最後に頭をなでてもらったのはいつだろう。偏屈な哲学者にならって、「人間め!」とつぶやく。

2月20日付 編集手帳 読売新聞
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