弔問のあいさつはむずかしい。頭を下げ、聞き取れないほどの低い声で、「黒足袋(くろたび)、白足袋(しろたび)」と言え。作家の吉村昭さんはそう教わったという
すべての弔問客が言語明(めい)瞭(りょう)に悲しみを語れば、聴く遺族の心身がもたない。無意味なつぶやきもときには思いやりだろう。葬礼とは死者の霊を鎮める「鎮魂の儀式」であるとともに、残された生者を皆でいたわる「絆(きずな)の儀式」でもある
女性を殺して遺体を無残に切断した男に先週、東京地裁で無期懲役の判決(求刑・死刑)が言い渡された。死刑が相当かどうかは殺した後の残酷さではなく、殺すまでの残酷さで判断するのだという
法解釈はともかくも、判決からは遺族に寄せる「黒足袋…」程度のいたわりも感じることができない。わが子を切り刻まれ、下水に流された親は明日をどう生きればいいのだろう
折しも、遺体をひつぎに納める納棺師を主人公に、死を通して命の尊さと人の絆を描いた映画「おくりびと」(滝田洋二郎監督)が、米国アカデミー賞・外国語映画賞に輝いた。本木雅弘さん演じる納棺師のおごそかな、いたわりの所作が眼底によみがえる。
2月24日付 編集手帳 読売新聞
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