「いないいないばあ」で幼児は笑う。「いないいない」で母の消える不安が生じ、「ばあ」で安堵(あんど)する。「笑いとは防衛解除のことである」と文芸評論家の三浦雅士さんが「青春の終焉(しゅうえん)」(講談社)に書いている◆第一生命保険が全国から募るサラリーマン川柳を毎年の愉(たの)しみにしてきた。ニヤリとし、ときに噴き出すのも防衛解除の心理作用かも知れない◆10年ほど前の作品、〈この俺(おれ)を 雇わないとは 目が高い〉。俺の能力を見抜くとはさすがだね――就職の失敗という緊張が、自分自身を笑いのめす作者の心の余裕に触れて解除される。以前はそうだった◆今年の入選100作品を読み、笑いどころを探すのに苦労している。作品の問題ではなく、現実があまりに深刻なせいだろう。〈仕事減り 休日増えて 居場所なし〉や〈昼食は 低カロリーより 低コスト〉に「うまいな」と感心しつつ、現実味の醸し出す緊張は解除してもらえないまま胸に残った◆「ユーモリストとは不機嫌を上機嫌にぶちまける人のことだ」と、フランスの作家ルナールは語っている。上機嫌であることが至難のご時世である。
2月11日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge