俳人としても知られた歌舞伎の初代中村吉右衛門は小唄も達者で、渋い声を聞かせた。「系図」という歌をおはこにしたという。〈ひいじいさん、ひいばあさん、おじいさんにおばあさん、おとっつぁんにおっかさん…〉◆さらには、〈おじごにおばご、むすこによめご、おあにいさんにおととごさん、あねにいもうと、まご、ひこ、やしゃご、いとこにはとこ、おいごにめいご、ごようし、ごようじょ、あとは、ごえんがちととおい〉。ふう~◆歌の文句が胸に優しく響くとすれば、「ちと」(=ほんの少し)一語の手柄だろう。孫の子・ひこ、ひこの子・やしゃご、その先を何と呼ぶかは知らないが、その子との間にもご縁はある。ほんの少し遠いだけで、と◆思えば人はいつの時代も、自分と子、孫あたりまでが豊かになることを念じて生きてきた。系図の先に待つ子孫を「無縁」の存在として視野の外に置いてきた結果が、瀕死(ひんし)ともいうべき今の地球環境だろう。きょうから北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)がはじまる◆ひこ、やしゃご、さらに先の子供たちに聞かれても恥ずかしくない討議を望む。
7月7日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge