7.16.2008

漁業の崩壊を防ぐ手だて… 編集手帳 八葉蓮華

漁業の崩壊を防ぐ手だて… 編集手帳 八葉蓮華
詩人の川崎洋さんは九州に旅した折、居酒屋で青年と隣り合わせた。焼いたカレイを食べている。骨の標本にして飾れるくらいの見事な箸(はし)遣いに感心し、「カレイ」という詩を書いた◆〈きみ きれいに食べるね/と声を掛ければ/カレ こちらも見ずに/はいネコが月謝払って/魚の食べ方ば習いにきよります〉。詩文集「交わす言の葉」(沖積舎)に収められている◆ネコと机を並べて上手な食べ方を習わねば、罰が当たりそうなご時世である。燃料費の高騰に悲鳴を上げて、20万隻の漁船がきのう、全国一斉に休漁した◆漁師の3割が廃業の危機にあるという。税金のばらまきにならない形で、財政支援の知恵を絞る。価格転嫁によって消費者が少しずつでも漁師の負担を引き受けられるよう、流通の仕組みを改める。漁業の崩壊を防ぐ手だてを国は急がねばならない◆漁港の町を旅するとき、満腹して寝そべり、あるいはそぞろ歩く悠揚迫らぬネコたちを眺めるのを愉(たの)しみにしている。彼らも気が気でないだろう。窮状を訴えて振り上げるこぶしにネコの手も貸したい…と、ヒゲの憂い顔で言い交わしつつ。

7月16日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge