中国の官吏登用試験、科挙では「糊名謄録(こめいとうろく)の法」と呼ばれる不正防止策が取られた。受験者の名前が見えないように糊(のり)で封をし、さらに答案全部を筆写して謄本のみを採点委員に回す◆賄賂(わいろ)をもらった委員も、受験者の名前と筆跡を隠されては下駄(げた)の履かせようがない。それでも東洋史家の宮崎市定(いちさだ)さんによれば、何行目の何字目に何という字を書くと示し合わす者もいたというから、悪知恵は尽きないようである◆大分県の教育委員会にも同様の法が要るらしい。校長や教頭が自分の子供たちを教員採用試験に合格させるべく県教委の幹部に現金を渡したり、管理職の任用試験で商品券が物を言ったり、まあ、めちゃくちゃである◆金品に神経の麻痺(まひ)した教育者たちは、もしも児童生徒の父母から「うちの子の成績を何とぞよろしく」と現金を差し出されたら、何と答えるのだろう。よもや、「おぬしもワルよのう」とは言うまいが…◆「糊名謄録の法」にも抜け穴があったように、出直しの鍵は人に尽きる。立場ある人々が、よれよれ、くたくたの良心にパリッと糊を利かせてこそだろう。まずは“糊心”である。
7月9日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge