五つの安心プラン… 編集手帳 八葉蓮華
かつてフランスに女神のごとく君臨した名女優、サラ・ベルナールに伝説がある。会食の席でのこと、彼女は料理のメニューを読み上げただけで、同座の人々を泣かせたという。芸の力だろう◆政府がときに緊急対策の名のもとにまとめる政策のメニューも、サラの神業には及ばずとも、聴く人の心にしみ入るように読み聞かせねばなるまい。きのう、「五つの安心プラン」を聴いた◆医療、高齢者対策など社会保障5分野の緊急政策メニューである。医師不足の解消策として救急や産科、へき地で過酷な医療現場を支える医師に手当を直接支給するなど、新機軸の料理もないではないが、疑問は残る◆「食材は調達できますか?」――財源の裏付けが心もとない。「厨(ちゅう)房(ぼう)は清潔ですか?」――消えた年金記録など社会保険庁のでたらめぶりを次から次に見せられて、厨房(厚生労働省)に抱く不信感は抜きがたい◆辞書によれば宰相の「宰」の字は、「刃物で肉を切って料理する」意味だという。福田シェフが財政構造と官僚体質に包丁を振るうまでは、メニューを聴いただけでうれし泣きする人はいないだろう。
7月30日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge