7.18.2008

防災情報の信頼… 編集手帳 八葉蓮華

防災情報の信頼… 編集手帳 八葉蓮華
周の幽王が寵愛(ちょうあい)した妃(きさき)、褒(ほう)ジは笑わぬ人だった。あの手この手で笑わそうとしても、にこりともしない。と、外敵の侵入を知らせる狼煙(のろし)が間違って上がり、諸侯が大あわてで駆けつけるのを見て、妃は大いに笑った◆王は喜び、たびたび狼煙で妃の機嫌を取り結んだが、諸侯はしだいに警報を信じなくなる。ある日、本当に敵が襲来したとき、狼煙を上げても「兵、至る者なし」、王の命運は尽きたと司馬遷の「史記」は伝えている◆幽王のようにわざと偽りの狼煙を上げているわけではないが、人々が「どうせまた間違いだろうよ」と、いざという時に反応しなくなるのが怖い。気象庁で防災情報のミスが続いている◆緊急地震速報の誤報で都営地下鉄などが止まったほか、大雨・洪水、竜巻、潮位…と、2か月で計5件は幽王並みとは言わないまでも、やはり多すぎだろう。記者会見で長官が陳謝した。業務を緊急に点検するという◆天変地異の被害よ、大きかれ、と念じる邪(よこしま)な鬼神がいるならば、防災情報の信頼がひとつ揺らぐたびに、不気味な笑みを浮かべていよう。褒ジをこれ以上、喜ばせてはいけない。

7月18日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge