7.10.2008

「お暑い盛り…」 編集手帳 八葉蓮華

「四万六千日、お暑い盛りでございます…」。落語「船徳」を口演する八代目桂文楽さんの声音を懐かしく思い出す方もおられよう。きょうは観音様の縁日「四万六千日」、この日にお参りすると4万6000日分の功徳があるとされる◆旧暦の7月10日は新暦に直せば8月の半ば、炎暑のなかのお参りであったろう。いまは東京近辺の人ならば、浅草寺の「ほおずき市」をそぞろ歩いて夏本番の青空を待つ。梅雨どきの風物詩になっている◆4万6000日といえば100年を超える歳月である。その数字にふと遠い未来の地球を想像し、「お暑い盛り」という言葉が浮かんでくるのも時節柄だろう。北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)が幕を閉じた◆温室効果ガスの排出量を2050年までに半減させる。その目標を世界全体で共有する。サミットの合意はほおずきの実のような小さな炎ではあれ、地球100年、1000年の計を担う炎でもある◆俳人、楠本憲吉さんに一句があった。〈誰を誘いて行かん四万六千日〉。地球を「お暑い盛り」にしないための長い旅がはじまる。もろもろの国を誘いて。

7月10日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge