7.23.2008

読書のにぎやかな話題が続く… 編集手帳 八葉蓮華

読書のにぎやかな話題が続く… 編集手帳 八葉蓮華
作家の子母沢寛(しもざわかん)は若いころの一時期、「朝の気商会」という会社に勤めていた。風変わりな社名は「人間、いつも朝起きたときのような気分でいよう」という社長のモットーから付けられたという◆作家の回想によれば、ありもしない鉄材を売り歩き、現物が見たいと言われたら他社の鉄材置き場に案内する。でたらめな会社であったらしいが、モットーだけは褒めてもいいだろう◆ここ何日か、小一時間ほど早起きをして本をひらいている。ページはそう進まないが、時間を少し得したような、一日のめりはりがつくような心地よさは「朝の気」の功徳かも知れない◆先日は中国人の楊逸(ヤンイー)さんが書いた「時が滲(にじ)む朝」が芥川賞に輝き、きょうは世界のベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの完結編が発売されるなど、読書のにぎやかな話題が続く。朝ひらく一冊を探すのも愉(たの)しい◆夏の読書で思い出す詩がある。〈風にページをめくらせ/海をみている/本よむ人…〉。長谷川四郎「本よむ人の歌」の一節である。海は望めなくとも窓からの風にページをめくらせ、「朝の気」を肺に満たすのもいいだろう。

7月23日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge