7.24.2008

お前は何と云う下等な奴だ… 編集手帳 八葉蓮華

お前は何と云う下等な奴だ… 編集手帳 八葉蓮華
暗闇のなかで声が問う。お前がこの世でなした行為の責任は? 「僕」が答えて言う。〈四分の一は僕の遺伝、四分の一は僕の境遇、四分の一は僕の偶然、――僕の責任は四分の一だけだ〉◆その返答に、暗闇の声は告げた。〈お前は何と云(い)う下等な奴(やつ)だ!〉と。きょうが命日の作家、芥川竜之介の遺稿「闇(あん)中(ちゅう)問答」にある。全集をひもといて味わいたい言葉はほかに幾らもあるのだが、時節柄で仕方がない◆先月、17人が死傷した東京・秋葉原の通り魔事件では犯人の男の「境遇」、過酷な派遣労働の実態などが掘り下げて報じられた。事件の背景をなす根がいかに深かろうとも、しかし、境遇によって「僕の責任」が数分の一に軽減されるわけではない◆一昨日の夜、今度は東京・八王子の書店で会社員の男(33)がアルバイト店員の女子大生(22)を包丁で襲い、殺した。「仕事がうまくいかず、ムシャクシャしてやった。誰でもよかった」。男はそう供述しているという◆いかに恵まれぬ、いかに悩み多き境遇も、何の罪も落ち度もない人の命を奪う行為の言い訳にはならない。「僕の責任」は四分の四である。

7月24日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge