「親ばか」も度を越せば… 編集手帳 八葉蓮華
向田邦子さんは生前、語ったという。「『バカ』が放送禁止用語になったらテレビドラマをやめます」。たしかに日常会話でよく使われる言葉である◆柴又の昔なじみに「おい、相変わらずバカか」と呼びかける“寅さん”の名人芸は別として、一般には使い方がむずかしい。週刊誌に「バカ市長」と書かれた市長が発行元の出版社を名誉棄損で訴えた裁判で、市長側の勝訴が確定したという◆これを他山の石に「バカ」はなるべく用いまい…とは思えども、大分県の教員採用をめぐる底なしの無軌道ぶりなどを見ていると、その誓いも少々揺らぐ◆県の教育委員会は不正に合格した教員の採用を取り消すという。賄賂(わいろ)でわが子に教員の資格を買い与えた親は結局のところ、子供の人生を狂わせ、辱めただけである。「親ばか」も度を越せば、親の一字を消さねばなるまい◆三省堂の新明解国語辞典で「ばか」を引く。「ばかばか=女性が、相手を甘えた態度で非難して言う言葉」。言いたくもない「バカ」はつい口をついて出るわ、聞いてもいい「ばかばか」は聞いたこともないわ、ままにならない言葉ではある。
7月17日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge