7.11.2008

「正直者のみが行列に立つ…」 編集手帳 八葉蓮華

戦時中の戯(ざ)れ歌がある。〈世のなかは 星に錨(いかり)に闇に顔 ばか者のみが行列に立つ〉。星は陸軍、錨は海軍、闇は闇取引の闇、顔は「顔が利く」の顔である◆軍部の威光には縁がなく、闇で買う金もなく、頼るコネもない。ごらん、ないない尽くしのばか者どもが配給の行列に並んでいるよ、と。ばか者とはつまり、「正直者」のことらしい◆星と錨は過去になったが、闇と顔は戦後も生きながらえて、ふとした拍子に醜い姿をさらけ出す。「いい点を取れば受かると思っているの? ばかだねえ」。金にもコネにも頼らず、情熱ひとつを胸に教員採用の門を叩(たた)いた若者たちを、彼らはひそかに嗤(わら)っていたのかも知れない◆校長や教頭が賄賂(わいろ)を使って自分の子供たちを合格させるのみか、県会議員の口利きに応じる「議員枠」まであったという。大分県の教員採用をめぐる汚職事件は日を追うごとに汚染域を広げ、とどまるところを知らない◆闇のなかで札束を数えたのが誰々で、顔の力で採点を操作したのが誰々か、捜査の光は照らすだろう。受かるところを落とされ、行列のばか者扱いされては泣くに泣けない。

7月11日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge