7.25.2008

東北の夏… 編集手帳 八葉蓮華

東北の夏… 編集手帳 八葉蓮華
「眠い」を「ねぶたい」ともいう。ねぶた祭りの「ねぶた」も元は睡魔を指したらしい。それを追い払うのは神の災禍を受けぬ用心であったと、国文学者の池田弥三郎さんが「日本故事物語」に書いていた◆神の来臨するお盆の夜に眠ってはいけないと古人は信じ、〈ねぶた流れよ 豆(まめ=健康)の葉よ とまれ〉と歌いつつ、家内の息災を祈ったという◆午前0時26分といえば夢路の途中で叩(たた)き起こされ、狼狽(ろうばい)した方も多かったろう。きのう、最大震度6強の地震が東北地方を襲い、負傷者は岩手や青森などの8道県で計100人を超えた◆ひと月ほど前に、岩手・宮城内陸地震に見舞われたばかりである。青森のねぶた祭りなど「東北の夏」の書き入れ時を目前に控えて、観光に携わる人たちも不安を募らせているに違いない◆ねぶた流しの歌には、〈まなこの性(しょう)に善いように〉という文句もあった。睡魔に負けず、目が働きますようにと祈った言葉だろう。地を揺るがす者は夜も来臨する。眠らぬわけにはいかないが、グラリときたその時は間髪入れずに起動せよ。おのが「まなこ」に言い聞かせてみる。

7月25日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge