7.31.2008

日米通算3000本安打… 編集手帳 八葉蓮華

日米通算3000本安打… 編集手帳 八葉蓮華
10年ほど前だったか、第一生命保険が募ったサラリーマン川柳の優秀作を覚えている。〈打てぬ日もあるイチローを好きになり〉。「ああ、彼も人の子だった」という共感の一句だろう◆身を顧みても、その人を引き合いに独り言をつぶやくのは、彼が無安打に終わった日に限られるようである。あの天才だって稀(まれ)に打てない日があるじゃないか。凡才のおれが仕事でしくじって何の不思議があろうかと◆よくて成功率3割、10回に7回は失敗するのが打者であるとは、多くの人が語るところである。失敗が普通の競技で打って当たり前、打たなければ騒がれるという選手はそうそういない◆米大リーグ、マリナーズのイチロー選手(34)が日米通算3000本安打を記録した。「今季、まだ試合に出るのだから、僕は(3000本を)通り過ぎる」。試合後、そう語ったという◆日に2本も3本も安打を放っては野球少年が仰ぎ見る天上の星として輝き、ごく稀に“打てぬ日”をつくっては万年スランプのサラリーマンを慰めるべく地上に降り立つ。天と地を何往復かするうちに、また新しい記録が見えてくるだろう。

7月31日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge