8.01.2008

値上げの話ばかり… 編集手帳 八葉蓮華

値上げの話ばかり… 編集手帳 八葉蓮華
日本書紀の一行目にいわく、「いにしえに天地いまだ剖(わか)れず、陰陽分かれざるとき、混沌(こんとん)たること鶏(とりの)子(こ)の如(ごと)くして…」。この世の姿は混沌として鶏卵のようであったと◆卵は黄身と白身に分かれ、混沌としてはいない。すき焼きを食べるときの溶き卵は別だが――と、考古学者の森浩一さんが「食の体験文化史」(中央公論社)に書いていた◆物の値段といえば以前は、原油などのように値動きの激しい品々と、変動がほとんどない“物価の優等生”に分かれていたはずである。どうやらいまは黄身と白身が入り乱れ、混沌とした溶き卵になりつつあるらしい◆このところ、月初めは値上げの話ばかりを聞かされるが、きょうから一部の冷凍食品やマーガリンなどが値上げになる。優等生の卵では、ブランド卵が飼料の高騰を受けて値上げ組に名を連ねている◆まど・みちおさんの詩「めだまやき」から。〈「めだまやき」ということばは いたい/いたくて こわい/いきなり この目だまに/焼きごてを当てつけられるようで…〉。卵に限らず、店先で値札を見る目にも、ふと「焼きごて」を感じそうな夏である。

8月1日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge