どもならんな・・・ 編集手帳 八葉蓮華
釈迦の弟子、槃特(はんどく)はのちに悟りをひらいて高僧となったが、若いころは物覚えがわるく、自分の名前も覚えられなかったという。板切れに書き、背負って歩いた…◆上方落語「八五郎坊主」では和尚さんがこの伝承を例に引き、何でも忘れてしまう八五郎に修養を説いている。世の政治家は槃特さんとは違って、人の名前を覚える達人ぞろいと感心していたが、そうでもないらしい◆太田誠一農相の政治団体をめぐる事務所費の不明朗な扱いが明るみに出た。これから領収書などを精査し、国民にきちんと説明するというが、入閣する時に済ませておくべきことだろう◆佐田…松岡…赤城…と、安倍政権が短命に終わる一因をなした“不始末組”の名前をもう忘れていたか。八五郎にあきれた和尚さんのせりふではないが、「そう尻から尻から忘れてもろうては、どもならんな」である◆遅ればせながら高僧に倣い、政治資金でつまずいた閣僚リストを、まあ、板切れを背負うのも大変だから、紙に書いて背広の下あたりに留めてみるのもいいだろう。留める道具は安全ピンか、粘着テープか、そう、絆創膏(ばんそうこう)もある。
8月29日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge