8.23.2008

「夏炉冬扇」あまり急に涼しくなると・・・ 編集手帳 八葉蓮華

「夏炉冬扇」あまり急に涼しくなると・・・ 編集手帳 八葉蓮華
ポール・クローデルに、日本列島を「琴」に見立てた詩がある。フランスの詩人で、大正から昭和にかけて駐日大使も務めた人である。〈日本 長き琴のごと/出(い)づる日の 一指(いっし)のもとに いまをののく〉◆水平線に射(さ)しのぼる「指」(=夜明けの閃光(せんこう))に触れて琴はおののき、鳴りいだす…。「詩人の想像のなかにとらえられた、まことに美しく鮮烈な列島の姿である」と、比較文化学者の芳賀徹さんは「詩の国 詩人の国」(筑摩書房)に書いている◆琴の長さを感じさせる便りが北海道から届いた。沖縄では真夏日というのに、稚内市できのう、最低気温1・5度を記録したという。1893年(明治26年)に帯広市で観測した道内8月の記録、2・1度を115年ぶりに更新した◆時期に合わない無用の事物を「夏炉冬扇(かろとうせん)」というが、もう少しで氷点下では夏炉さまさまだろう。夏も終わりですよ――と季節に追い立てられているようで、心なしか気ぜわしくもある◆あまり急に涼しくなると、いささか“五輪疲れ”の心身は震えおののく。季節を告げる琴の調べよ、どうかゆるやかな調子でお願いします。

8月23日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge