8.02.2008

水は溜まらない… 編集手帳 八葉蓮華

水は溜まらない… 編集手帳 八葉蓮華
「水も溜(た)まらず」とは刀剣がよく切れるさまをいう。「水も溜まらず切れにけり」(平家物語)などと使う。桶(おけ)の代わりに籠(かご)の釣瓶(つるべ)で井戸から水を汲(く)もうとしても、水は溜まらない。「籠釣瓶(かごつるべ)」とはよく切れる刀の異名でもある◆福田政権は籠釣瓶に似ている。国政の乱麻を断つ快刀内閣…というのではない。個々の閣僚が汗を流し、井戸端で綱の上げ下ろしに励んでも、「支持率」という水は一向に溜まらない、という意味である◆論外の社会保険庁、談合汚染の国土交通省、接待汚職の防衛省、居酒屋タクシーの諸官庁…と、政権が負った傷の大半は閣僚が握る綱の先、官僚という名の「籠」たちが招いた禍(わざわい)である◆綱の上げ下ろしに疲れたので選手交代を、という内閣改造だろう。汲み手を入れ替えても、しかし、籠が籠のままでは水は漏れつづける。快刀内閣に生まれ変わるには、閣僚が配下の官僚群に規律を取り戻し、隙(すき)のない「桶」に変えることから始めねばなるまい◆有効な政策を「つるべ打ち」できるか、できぬまま支持率が「つるべ落とし」で地に落ちるか、改造内閣の命運は“綱の先”で決まる。

8月2日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge