8.10.2008

挑戦することに意義がある・・・ 編集手帳 八葉蓮華

挑戦することに意義がある・・・ 編集手帳 八葉蓮華
近代五輪の父、ピエール・ド・クーベルタン男爵は、遺言により、自分の心臓をオリンピアの地に埋めた。ハート、すなわち心を五輪に捧(ささ)げ切ったということだろう◆「勝つことではなく、参加することに意義がある」。言わずと知れたクーベルタンの言葉だ。勝利へと向かって、前進し続ける努力に価値を認めた。「挑戦することに意義がある」とした方がいいかも知れない◆今、北京に204の国と地域から精鋭が集っている。不穏な空気をぬぐえない今大会ではあるが、選手たちはただひたすら、自らの限界に挑戦し、ドラマを見せてくれるだろう◆連日、感動と興奮を味わえるのも、近代五輪を実現させた男爵の偉業による。クーベルタンのせめて万分の一でも意義ある事を成し、最期に、生涯の志を仕込んだ我が心臓を縁(ゆかり)の地に埋めよ、と遺言してみたいものだ◆きょう8月10日は語呂合わせで「ハートの日」。心臓疾患の予防を心がける日という。いまだ偉業のかけらすら成さず、中に込める志も見つからぬままだが、北京のアスリートたちを応援しつつ、とりあえず入れ物だけは大切にしておきたい。

8月10日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge