人は不安になると太陽に背を向ける・・・ 編集手帳 八葉蓮華
海水浴場の迷子は夕暮れに東の浜で見つかる。監視員から、そんな経験則を聞いたことがある。人は不安になると太陽に背を向ける。西日が砂浜に落とす影を追いながら、とぼとぼと歩くうちに、東の果てに行きつくのか◆燃料高にみまわれたこの夏、レジャーは「安・近・短」の志向が強まり、近場のビーチでは、色とりどりのパラソルの花がひらいた。だが、見上げれば、いつしか空は高くなり、夕暮れの浜には涼風が吹いている◆12月31日、3月31日、8月31日…1年のうちには何日か、いくらかの淋(さび)しさと、明日への緊張とが、ないまぜになる一日がある。立秋はとうに過ぎたが、子供のころの習い性だろう、8月31日にはいつも「夏の終わり」を思う◆最近は雪国などだけでなく首都圏の一部の公立小中学校でも、授業時間を確保するために夏休みを短縮し、先週から2学期がはじまっている。夏休みもとれずに、働きづめだった社会人の方もおられよう◆きょうは日曜日。この夏にやり残したことはないか、家族で思い返してみるのもいいだろう。9月の太陽に向かって、歩き出す活力を得るためにも。
8月31日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge