9.01.2008

立ち上がる農山漁村・・・ 編集手帳 八葉蓮華

立ち上がる農山漁村・・・ 編集手帳 八葉蓮華
「どさ」「ゆさ」という津軽弁は、「どごさ行ぐの」「湯さ行ぐどご」の省略である。「ナンバ」も表現を短くする例だろう。16世紀にポルトガル人が日本に唐辛子を伝えたとされ、南蛮辛子と呼ばれた。津軽でナンバは唐辛子を指す◆北国に唐辛子をもたらしたのは、あご髭(ひげ)が長く、髭殿の異名を持つ津軽藩初代藩主の津軽為信だった。京都から持ち帰り、城下で栽培させたという。地元に根づいて、昭和の一時期には、全国有数の産地に育った◆平成になると、輸入トウガラシなどに押されて栽培農家が激減し、存続が危ぶまれたこともある。弘前市内の産地名をつけた「清水森ナンバ」と命名し、地域ぐるみで復活を目指したのは約4年前だった◆今は栽培農家が増え、辛みと風味が特徴の弘前在来のブランドとして商標にもなっている。国の「立ち上がる農山漁村」などに選ばれた地域活性化のモデルである◆秋めいてきた弘前の畑では、赤と青のナンバの収穫が始まった。為信公の銅像が弘前城近くに立つ。手ずから蒔(ま)いた地域振興のタネが育って旧城下が潤う。自慢の髭がぴくりと動いたように見える。

9月1日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge