9.08.2008

残ったものを最大限に活かそう・・・ 編集手帳 八葉蓮華

残ったものを最大限に活かそう・・・ 編集手帳 八葉蓮華
クーベルタン男爵の姉の孫、ジョフリー・ナバセル・ド・クーベルタン氏が語っている。「大叔父が蘇(よみがえ)ったら、教育的価値が少ないと言って、五輪廃止に動くかも知れないねえ」(結城和香子著、オリンピック物語)◆今ならば近代五輪の父は、金メダル至上主義やドーピング問題に揺れるオリンピックよりも、パラリンピックに力を入れたことだろう。五輪の行き過ぎた面がこちらには広がらぬよう願いたい◆パラリンピックの礎を築いたグットマン卿は言った。「失ったものを数えてはいけない。残ったものを最大限に活(い)かそう」。残酷にも響く、厳しい言葉である。それを真正面で受け止める所から障害者のスポーツは始まるのだろう。パラリンピックのアスリートたちは、五輪選手以上に観客の心を揺さぶる◆わが身を眺めてみれば四肢をはじめ失ったものはなく、その幸いを当たり前と思い込んできた。天賦の才の乏しさを嘆くことに時を費やし、では与えられたものは活かし切っているのか、と問われれば首を振るしかない◆北京の聖火台に再び火が点(とも)った。本当に見たいドラマが、これから始まる。

9月8日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge