ジタバタ「眼は節穴、耳はきくらげ」・・・ 編集手帳 八葉蓮華
仮名垣魯文(かながきろぶん)の「西洋道中膝栗毛(ひざくりげ)」に、洞察力のお粗末な北八を弥次郎兵衛がやりこめる場面があった。〈てめへなんざア、眼は節穴、耳はきくらげ(きのこの一種)どうぜんだから…〉◆その啖呵(たんか)を、見えて当然のものを見落としてきた農水省に贈る。汚染米を食用に横流ししていた「三笠フーズ」(大阪市)に100回近くも立ち入り調査をして不正を見抜けないとは、何を、どう調べていたのだろう◆元帳を見れば、出荷先が食品関係かどうかは分かる。元帳を偽っていても、出荷先に問い合わせれば偽装は容易に見抜ける。〈書物(かきもの)を見ても、白紙(しらかみ)えまんべんなく、黒イ物がつイてゐると思ふのだらう〉とは弥次郎兵衛の言葉だが、節穴で上っ面をなでる調査であったに違いない◆三笠フーズから飲食の接待を受けていた職員もいる。知らずに汚染米を買わされて信用を落とし、客離れにおびえる菓子店などの経営者から、農水省に怨嗟(えんさ)の声が上がるのは当然だろう◆太田誠一農相はテレビ番組に出演の折、「人体に影響がないので、あまりジタバタ騒いでいない」と語った。立派な“きくらげ”をお持ちである。
9月18日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge