9.23.2008

血は一代限りだよ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

血は一代限りだよ・・・ 編集手帳 八葉蓮華
生前、古今亭志ん朝さんは口癖のように語ったという。「血は一代限りだよ」。父・志ん生の破天荒に対し、正統派の江戸前落語を磨き上げた。七光りを恩寵(おんちょう)ではなく十字架として背負い、わが道を究め得た人の誇り高き言葉だろう◆同じ言葉が政界では一度ならず二度、失望の吐息とともに語られた。誰それ元首相の孫、誰それ元首相の子があっさり政権を投げ出し、「おじいちゃんやお父さんはもっとしぶとかったろうに、血は一代限りだね」と◆自民党の新総裁にきのう選ばれた麻生太郎氏(68)が喜びの挨拶(あいさつ)で語ったところでは、くしくも祖父・吉田茂元首相の誕生日であったという。“系図倒れ”に懲りた国民は、壇上のご本人ほどは感慨を催さなかったろう◆2世、3世議員は「ひ弱さ」の代名詞になりつつある。〈俺の死に場所 ここだと決めた…〉は麻生氏がカラオケで愛唱するという「花と竜」の一節だが、総選挙が近かろうと遠かろうと、次期首相に求められるのは政見を責任もって実行に移す二枚腰、三枚腰のしぶとさである◆血は一代限り、おじいちゃんの名前はしばらく封印するのもいい。

9月23日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge