「事故米」カビや農薬に汚染され、どこぞの・・・ 編集手帳 八葉蓮華
夜店の道具屋でノコギリを売っている。火事場の焼け跡で見つけた拾い物で、さびを落として油を塗り、柄を付け替えただけだから板の一枚も切れない。「置いといたら、どこぞのアホが買(こ)うていくやろ」。落語「道具屋」である◆大阪の会社「三笠フーズ」も「どこぞのアホが知らずに食うねやろな」とでもつぶやき、売り上げを勘定していたか。食の安全を揺るがす偽装は、無邪気なノコギリに比すべくもない◆カビや農薬に汚染され、本来は工業用にしか販売できない「事故米」を、酒造会社などに正規の食用米と偽って卸していた。安い事故米と食用米の価格差に目をつけた利ざや稼ぎである◆農水省は1年半も前から不正を告発する情報に接し、立ち入り調査もしながら“シロ”と判定していた。事故米の販売先を一つひとつ丹念につぶしたかどうか。「調べに来よったで、どこぞの…」となめられるような、上っ面の調査だった疑念が残る◆信用を粗末にし、卑しい稼ぎに走った企業の行く末には、いくつかの先例がある。切れないはずのノコギリが会社の屋台骨に刃を立てる音を、経営者は聴くだろう。
9月10日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge