9.05.2008

人はいつか煙になり、灰になる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

人はいつか煙になり、灰になる・・・ 編集手帳 八葉蓮華
「東海道中膝栗毛(ひざくりげ)」で知られる戯作者、十返舎一(じっぺんしゃいっ)九(く)に辞世の狂歌がある。〈此世(このよ)をばドリヤお暇(いとま)に線香のけむりとなりて灰(はい)左様(さよう)なら〉◆人はいつか煙になり、灰になる。人生の無常転変を映すものが灰ならば、その対極にある悠久不変の象徴は何だろう。「永遠の輝きを」という宝飾店の広告に従えば、ダイヤモンドがそうかも知れない◆故人の遺灰を高温・高圧で処理し、人造ダイヤをつくっているスイス企業の記事を、きのうの国際面で読んだ。1人分の遺灰から最大1カラットのダイヤができ、最低価格は80万円ほどという◆日本を含む国内外から月にして約60件の注文があるというから、なかなか繁盛している。亡き人にいつも触れていたい、片ときも離れたくない、という人は多いのだろう◆アンジェイ・ワイダ監督の映画「灰とダイヤモンド」に引用された詩の一節を思い出す。〈永遠の勝利の暁に、灰の底深く/燦々(さんさん)たるダイヤモンドの残らんことを〉。人生に「永遠の勝利」は望むべくもないが、「燦々」は望めばかなう時代であるらしい。好みとしては硬い石になるよりも、千の風に心ひかれるけれど。

9月5日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge