9.11.2008

野党から茶番と批判される総裁選・・・ 編集手帳 八葉蓮華

野党から茶番と批判される総裁選・・・ 編集手帳 八葉蓮華
自宅のそばに商店街がある。豆腐店と精肉店が軒を並べ、何軒か隔てて青果店がある。散歩の行き帰りに水槽の豆腐を見、肉の棚を見、ネギや白菜の山を見ると、「寄せ鍋もいいな」と思う◆鍋の季節には早いが、山口青邨(せいそん)の一句、〈寄鍋やむかしむかしの人思ふ〉秋の夜もわるくないと。目に映る別個の食材が、頭のなかの鍋で煮える。妙な連想だが、5氏の立候補した総裁選に込めた自民党の思惑もこの“空想鍋”にあるかも知れない◆経験の人あり、若さの人あり、初の女性あり、分野分野の政策通あり…多様な食材が有権者の脳裏でぐつぐつ湯気を立て、食欲を刺激することができれば、秒読みに入った解散・総選挙で有利に働くと読んでいるだろう◆所詮(しょせん)は空想の鍋で、ネギさんであれ、豆腐さんであれ、総裁の座を射止めるのは一人である。それでも、討論会や遊説を通じて互いの政見をじっくり煮込み、灰汁(あく)を取り、新内閣の政策運営にうまい出汁(だし)が残るのならば、野党から茶番と批判される総裁選もその意義は小さくない◆変な甘味料に舌がだまされるのを注意しつつ、各候補の政見を聴くとしよう。

9月11日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge