人間さまは恩知らずで・・・ 編集手帳 八葉蓮華
児童文学の古典、ロフティング著「ドリトル先生アフリカゆき」で、犬と豚が口論をする。犬が豚を罵(ののし)って言った。「トンカツの生きたの!」(井伏鱒二訳)◆ずいぶんと口の達者な犬だが、豚泣かせでは人間も犬のことは言えない。「豚に真珠」「豚もおだてりゃ木に登る」「ブタ箱」…等々、豚の身になれば人の世は心痛む言葉で満ちている◆米大統領選で民主党オバマ候補が共和党マケイン候補の唱える「変革」を「口紅つけても豚は豚」と揶揄(やゆ)し、物議を醸した。女性の副大統領候補ペイリン氏を中傷したとマケイン陣営は非難している◆政策構想のお粗末な内実と、ちょっと見のいい外観を対比する喩(たと)えが「豚と口紅」であるならば、わが永田町でもこれから与野党が互いに相手を指さして、似たような応酬がはじまるだろう。洋の東西を問わず、しばらくは豚に受難の季節がつづく◆きのう、街で買ったトンカツ弁当を昼食に食べた。ボリュームといい、手ごろな値段といい、お役に立っているのに人間さまは恩知らずで…と、豚の苦情が聞こえてきそうである。ブーイングと呼ぶのかどうかは知らない。
9月13日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge