首相がころころ交代し・・・ 編集手帳 八葉蓮華
清少納言は「枕草子」のなかで、〈人にあなづらるるもの〉(侮られるもの)を二つ挙げた。一つは〈築土(ついじ)のくづれ〉(土塀の崩れ)、もう一つは〈あまり心善(よ)しと、人に知られぬる人〉(極度のお人好(ひとよ)し)だと◆民主党も人に例えれば、お人好しの部類だろう。一昨日、「メディア対策チーム」の初会合を開いた。政治報道が自民党総裁選一色にならぬよう、世の関心を民主党に引き寄せる対策を話し合うという◆「これから面白いことを言います」と前置きされたら、どんな冗談も人は笑ってくれない。「これからお世辞を言います」と前置きされたら、どんな美辞麗句も人は喜んでくれない。「これから皆さんの気を引く行動に出ます」と前置きされたら…◆前置きなしでやればいいものを、胸に秘めておく思惑もガラス張りにして見せる“うぶ”なところが、党の持ち味かも知れない。術策や駆け引きの巧拙が国益を左右する外交の場などでは、あまり発揮してほしくない持ち味ではある◆首相がころころ交代し、与党は与党で〈築土のくづれ〉が目立つ。いまの政局を見るようで、枕草子の数行はほろ苦い。
9月6日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge