高齢者を支える大切な役どころ・・・ 編集手帳 八葉蓮華
歌舞伎ファンの中でも、「後見」のうまさを評価できる人は通だろう。後見とは、役者の陰で衣装の早変わりを助けたり、小道具を受け渡したりする役目だ◆黒衣(くろご)、といった方が通りはいいかもしれぬが、必ずしも黒い装束を着ているわけではない。先ごろ観(み)た「勧進帳」では鬘(かつら)をかぶり、裃(かみしも)をつけていた。歌舞伎十八番の演目などは「裃後見」といって姿を消さない。しかし、目障りとはならずに主役を助ける◆勧進帳では弁慶が激しく舞いながら、いろいろと手放したり、受け取ったりするので、後見の役割はとりわけ重要だ。息が合わないと小道具のやりとりでケガをすることもある。もちろん、通から聞いた受け売りである。人を補佐することを後見と呼ぶ意味を得心した◆「成年後見人」という言葉を耳にしたことがおありだろう。認知症のお年寄りの財産を悪徳業者などから守る。背後で居住まいを正しつつ、さりげなく高齢者を支える大切な役どころだ◆21日は世界アルツハイマーデー。各地で認知症について考える催しが開かれる。現代の裃後見と、その仕事をきちんと評価する“通”を増やしたい。
9月21日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge