見てくれだけピカピカの対策・・・ 編集手帳 八葉蓮華
とびきりの笑顔で金メダルにかじりつく。夏の北京五輪で何度となく目にしたシーンである。金は純度が高いほどやわらかい。メダルをかむポーズは、金貨が本物かどうか確かめたころの名残といわれる◆時代劇の岡っ引きも、ニセ小判をかじって見破る。金の比率が9割の慶長小判ならわかるが、これに銀を加えて作り直した元禄小判は半分近くが銀だ。本物であっても、歯形がつくほどやわらかくなかったろう◆小判の地金も半分近くが銀だと白くなる。ところが、元禄小判は純金のような黄金色に輝いている。秘密は「色揚げ」と呼ばれる独特の仕上げにある。複数の酸化化合物を塗って火であぶると銀だけ溶け出し、表面はほとんど純金になる◆政府・与党がまとめた12兆円の経済対策で使われる予算は2兆円ほど。国の支出は4000億円なのに、中小企業への融資を9兆円追加できると勘定するなど、色揚げの技術が用いられている。金ならぬカネの水増しは小判の比ではない◆見てくれだけピカピカの対策を、「さあ、かじりなさい」と差し出されても、メダリスト並みの笑みがこぼれる人は稀(まれ)だろう。
9月14日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge