9.09.2008

“くさい物に蓋”人が騒ぎ立てるから・・・ 編集手帳 八葉蓮華

“くさい物に蓋”人が騒ぎ立てるから・・・ 編集手帳 八葉蓮華
モリエールの喜劇「タルチュフ」で、詐欺師タルチュフが言う。〈悪事が悪事になるのは人が騒ぎ立てるからですよ。こっそり罪を犯すのは罪を犯すことにはなりません〉(第4幕)◆この言葉が脳裏をかすめたのは昨年の6月、時津風部屋で17歳の力士が親方や兄弟子から暴行を受けて死亡したときである。3か月後、文部科学省に催促されるまで日本相撲協会は親方から事情を聞きもしなかった。騒ぎになって初めて腰を上げる◆同じ言葉が再びかすめたのは、露鵬、白露山両力士の大麻吸引疑惑をめぐり、北の湖理事長の言葉を漏れ聞いたときである。「クロの判定が出たら、別の検査機関で調べればいい」「二人が秋場所に出場するのも構わない」。世間よ、あまり騒ぎ立てるな――と言ったにも等しい◆世の批判に浴びせ倒しを食う形で、北の湖理事長が引責辞任した。タルチュフ流か悪事そのものには鈍感で、悪事が露見して騒がれることに神経をとがらす。相撲界の安住してきた“くさい物に蓋(ふた)”主義の破綻(はたん)である◆力士の正装は裸という。古傷も生傷も人目にさらし、協会は褌(ふんどし)一つで出直すしかない。

9月9日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge