「鳥瞰図」とりあえず・・・ 編集手帳 八葉蓮華
歌人の鎌田弘子さんに、漢字の読み違えを詠んだ一首がある。〈鳥瞰図(ちょうかんず)をとりあえずとよむというを一度(ひとたび)笑いたちまちさみし〉。「あえて…する」の「あえて」は「敢て」、なるほど「瞰」に似ている◆大所高所の「鳥瞰図」と、目先の「とりあえず」、その対比がおもしろい。思えば何年か前の“小泉旋風”も、「とりあえず」ばかりの経済政策に国民が業を煮やし、構造改革の「鳥瞰図」を求めた結果であったろう◆空の高みからは、しかし、生活にあえぐ地上の人々は見えない。デフレ脱却に果たした小泉改革の役割は認めつつ、開くがままにした貧富の格差などに「とりあえず」の痛み止めを求める世論の揺り戻しを受けて、麻生内閣が発足したばかりである◆潮目の変化を象徴してもいよう。小泉純一郎元首相(66)が次の衆院選に出馬せず、引退する意向を表明した。秘書をしている二男に議席を引き継ぐという◆政界の旧弊なしきたりに挑みつづけた小泉氏にして、世襲政治を高みから見下ろす「鳥瞰図」は持ち得なかったようである。その人らしからぬ流儀に、〈たちまちさみし〉の感もなしとしない。
9月27日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge