8.30.2008

「ゲリラ豪雨」水への畏怖と警戒・・・ 編集手帳 八葉蓮華

「ゲリラ豪雨」水への畏怖と警戒・・・ 編集手帳 八葉蓮華
天空の高みを海原にたとえることは、かつては詩人の一手専売であったろう。万葉集巻七には柿本人麻呂の〈天(あめ)の海に雲の波立ち月の船 星の林に漕(こ)ぎ隠る見ゆ〉という歌も見える◆今はどうやら誰もが空のなかに海を意識し、海上にあって抱く水への畏怖(いふ)と警戒を天上にも怠れぬ時代であるらしい。集中豪雨が突然、狭い範囲で短時間に起こる「ゲリラ豪雨」という言葉を新聞で見かけぬ日はない◆海と空は天然の巨大な蒸留装置といわれる。海面の温度が上昇すれば海水の蒸発する量は増え、その分、大気中の水蒸気が強い雨となって降りやすくなる理屈で、地球の温暖化をゲリラ豪雨の一因とみる専門家もいる◆きのうの朝にかけて東海や関東、中国地方の各地を、「空の水門」が開いたかのような豪雨が襲い、河川の氾濫(はんらん)で多数の家屋が浸水する大きな被害が出た。愛知では亡くなった方もいる◆的確な情報と、絶えざる警戒と、機敏な行動と、対ゲリラ戦の要諦(ようてい)はその三つであるという。ゲリラ豪雨の備えも同じだろう。きょうも一部の地域で激しい雨が予想されている。海のような空に、用心が怠れない。

8月30日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge