12.01.2008

氷に閉ざされた沈黙の世界の氷が解ければ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

氷に閉ざされた沈黙の世界の氷が解ければ・・・ 編集手帳 八葉蓮華
 世界最大の島、デンマーク領グリーンランドの名付け親は、10世紀後半、アイスランドから追放されてこの島にたどりついた殺人犯、赤毛のエリックだ。呼び名にひかれ、豊かな暮らしを夢見て入植した食い詰め者が、さぞや多かったに違いない◆日本の6倍も広い「緑の地」は、その名前とは裏腹の極寒の地だ。全土の8割が厚い氷雪に覆われた厳しい風土が、長年にわたり人間による開発をはねつけてきた◆犬ぞりで世界最初にグリーンランド縦断に成功した植村直己さんは、「この氷に閉ざされた沈黙の世界こそ、自然の原点なのではないか」と語っている。ところが、ここにも地球温暖化の影響が及んでいる◆住民には悪い話ではないらしい。氷が解ければ、これまでは夢物語だった石油やウラン、ダイヤモンドなど地下資源の開発も現実になりそうだとの期待がふくらんでいる。11月末に行われた住民投票で、地下資源の管理権移譲など、自治拡大案が承認された◆資源開発に成功すれば、漁業とデンマーク政府からの補助金に頼ってきた経済も自立可能となる。極北の地の風景が、変わろうとしている。

12月1日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge