12.17.2008

押しくら饅頭 少しずつ知恵と思いやりを ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

押しくら饅頭 少しずつ知恵と思いやりを ・・・ 編集手帳 八葉蓮華
 いまは用いられることのない季語に「越冬資金」がある。冬のボーナスをいう。大冊の「日本大歳時記」(講談社)にも例句は見あたらない◆俳人の夏井いつきさんは「絶滅寸前季語辞典」(東京堂出版)のなかで、「『年末賞与』というだけでも古くさい表現だと思っていたが…」、その比ではないと書いている◆派遣契約を打ち切られ、住む家もなくす人々が日々生まれている今年ほど、「越冬」の二文字が生々しい現実として胸に響く年の瀬はない。何年か前ならば笑い飛ばせたサラリーマン川柳〈職安で 働かせろよ この盛況〉を、いまは頬(ほお)をこわばらせて聴く人も多かろう◆自治体のなかには、地元の企業に解雇された非正規社員を臨時職員として採用するところもあると聞く。皆が膝(ひざ)送りで席を詰め、たとえ一人でも二人でも多くが座れる場所を――という心は企業の側にも欲しいものである◆夏井さんの辞典で「越冬資金」の隣には「押しくら饅頭(まんじゅう)」があった。企業と、地元の自治体と、国の機関とが少しずつ知恵と思いやりを持ち寄り、押しくら饅頭のなかから凍える人々を温めていくしかない。

12月17日付 編集手帳 読売新聞

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