12.10.2008

先生も分からないから一緒に考えてみよう・・・ 編集手帳 八葉蓮華

先生も分からないから一緒に考えてみよう・・・ 編集手帳 八葉蓮華
 8年前にノーベル化学賞を受賞した白川英樹さん(72)が中学時代の思い出を語ったことがある。物理の時間、ひとりの生徒が「雲はなぜ落ちてこないのですか」と教師に尋ねた。「雲をつかむような質問だ」と教師は話をそらした◆先生も分からないから一緒に考えてみよう。「そう答えてくれたら、私は化学ではなく物理の道に進んでいたかも知れない」と。学校の教室が好奇心の芽を摘み取る場になることもある◆夜道が教室になることもある。今年のノーベル物理学賞に選ばれた益川敏英さん(68)がストックホルムで受賞記念の講演をした。小学生の昔を回想している◆家具職人や砂糖商をしていた父親は科学や技術にも関心が深く、いつも銭湯に通う道すがら、モーターの回る仕組みや日食、月食の原理を話してくれた。理科の面白さをそうして知ったと、“英語嫌い”の益川さんは日本語で話した。遠い日の父に語りかけた講演でもあったろう◆暗い路地を脳裏に描く。タオルと石鹸(せっけん)の手桶(ておけ)を小脇に、ときに手ぶりを交えて語る父がいる。耳をすまして聴く子がいる。並んで歩く二人の上には、夜空の黒板。

12月10日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge