12.25.2008

「金が泣いてる」立ち往生したみずからを憐れみ ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

「金が泣いてる」立ち往生したみずからを憐れみ ・・・ 編集手帳 八葉蓮華
 将棋を好んだ作家、幸田露伴に一句がある。〈長き夜をたゝる将棋の一(ひ)ト手哉(てかな)〉。ああ指さずに、こう指していれば勝てたのに…と悔やまれて、寝つけない夜を詠んでいる◆麻生首相には、あのときの指し手がのちのちまで悔いる「一ト手」になるかも知れない。景気対策を盛り込んだ第2次補正予算案を、きょうが会期末の臨時国会に提出せず、年明けの通常国会に先送りしたことである◆多くの国民は「政局より政策」「景気の麻生」にそれなりの期待を寄せていたはずである。危機突破の気構えを疑わせる先送りにより、二つのスローガンに「なんちゃって」と付け加えたのは首相自身にほかならない◆同じ何兆円を使っても、首相は本気だぞ、景気は上向くぞ――と、世間が信じるか否かで、景気対策のカネは生きもすれば死にもする。補正予算案の早期提出は信じさせるための必然手(ひつぜんしゅ)「盤上この一手」であったろう◆盤上に立ち往生したみずからの銀を憐(あわ)れみ、「銀が泣いてる」と語ったのは孤高の棋士、坂田三吉である。効果は薄く、ツケのみ重く終わり、「金(カネ)が泣いてる」と嘆く日が来なければいい。

12月25日付 編集手帳 読売新聞

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